東京地方裁判所 昭和61年(特わ)2422号 判決 1987年3月04日
本店所在地
東京都文京区本駒込六丁目一二番一六号
ビイック株式会社
(右代表者代表取締役 佐藤長範こと佐藤長)
本籍
東京都八王子市台町二丁目九一番地
住居
同板橋区高島平三丁目一〇番五-四〇四号
会社役員
佐藤長範こと佐藤長
昭和四年八月二七日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渋佐愼吾出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人ビイック株式会社を罰金一七〇〇万円に、被告人佐藤長を懲役一〇月にそれぞれ処する。
被告人佐藤長に対し、この裁判確定の日から二年間、その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人ビイック株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都文京区本駒込六丁目一二番一六号(昭和五九年六月一七日以前は、同区本駒込二丁目一〇番三号)に本店を置き、電気計測器の製造販売等を目的とする資本金三六〇万円の株式会社であり、被告人佐藤長(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注加工費を計上し、あるいは販売総代理店契約締結に伴う契約金収入を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九二四一万四三二六円あった(別紙(一)修正損益計算書及び別紙(二)修正製造原価報告書参照)のにかかわらず、同五八年五月二八日、東京都文京区本郷四丁目一五番一一号所在の所轄本郷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二一三九万六七二円でこれに対する法人税額が八〇二万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第一三四四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の事業年度における正規の法人税額三七八五万三八〇〇円と右申告税額との差額二九八三万円(別紙(五)脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二六七万七五四円あった(別紙(三)修正損益計算書及び別紙(四)修正製造原価報告書参照)のにかかわらず、同五九年五月三一日、前記本郷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三〇六一万六二〇二円でこれに対する法人税額が一一五〇万三二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四一七六万五九〇〇円と右申告税額との差額三〇二六万二七〇〇円(別紙(六)脱税計算書参照)を免れた
ものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書四通
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 渡邊哲(二丁裏末行から三丁表七行目までを除く)及び平出正彦(四丁裏五行の一部、五丁裏一〇行から六丁表三行目まで、一八丁表八行から同九行目まで、一八丁裏一行の途中から同一〇行目まで、及び一九丁表三行目をいずれも除く)の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 期首仕掛品棚卸高調査書
2 期末仕掛品棚卸高調査書
3 外注加工費調査書
4 交際接待費調査書
5 支払手数料調査書
6 雑費調査書
7 受取利息調査書
8 契約金収入調査書
9 事業税認定損調査書
10 棚卸計上洩れ調査書
11 売上高調査書(その他所得)
12 外注加工費調査書(その他所得)
一 検察官作成の捜査報告書
一 押収してある法人税確定申告書(昭和五八年三月期)一袋(昭和六一年押第一三四四号の1)及び法人税確定申告書(昭和五九年三月期)一袋(同押号の2)
(争点に対する判断)
弁護人は、判示第一の事実につき、昭和五八年一〇月四日に修正申告したところの、三富士電機株式会社から仕入れた発振器三台の棚卸計上洩れの二一〇万円については、同年三月期の確定申告の際、被告人の多忙とスタッフの不足により、不注意によって在庫洩れ計上をしたもので、この部分は偽りその他不正行為によったものではなく、犯意を欠き、したがって、これはほ脱所得金額から控除されるべきである旨主張する。
そこで検討すると、関係証拠を総合すれば、被告人は、被告会社の法人税を免れようと企て、取引先の一つである株式会社協同精機(以下「協同精機」という。)の代表取締役渡邊哲と通謀の上、被告会社が協同精機に外注したように装い、納品書、請求書等を作成して代金を請求させ、それを約五パーセントの手数料を除いて残金を返戻させたり、また、ビイック販売株式会社との間で、被告人が開発した佐藤式自動地下探査機(以下「探査機」という。)の国内販売の総代理店契約を締結し、その契約金五〇〇〇万円をいわゆる裏金で支払ってもらうことにして、右契約金収入を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年五月二八日、本郷税務署長に対し、被告会社の所得金額が二一三九万六七二円で、これに対する法人税額が八〇二万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させたものであること、被告人は右申告書を提出するに先立ち、申告所得を大巾に上回る所得が存在することを認識しつつ、右申告書に署名押印したこと、被告人は、協同精機に実際に発注し納品を受けた三五〇L型起震機(以下「起震機」という。)五台については仕入帳に記載せず、架空外注した八台についてのみ記帳していたこと、架空の外注加工費の存在が発覚しないようにするため、昭和五八年三月期中に売上げた探査機三台の構成部分である起震機三台は、協同精機に架空外注した起震機八台のうちの三台であると返装することとし、架空外注の残りの五台を約一割の評価減をした上、仕掛品在庫として架空計上したこと、東京動機株式会社から仕入れた発電機一〇台のうち、探査機の構成部分として三台売れたにもかかわらず、したがって、帳簿等と照合して棚卸を行った場合はもちろん、照合せずに現物だけにあたって棚卸を行ったとしても在庫は七台という申告になるはずであるのに、売上げ済みの三台を加えた一〇台を期末仕掛品として計上していること、前記申告に先立ち、期末棚卸を行った際、納品書等をチェックしたところ、本来在庫としてあるはずの発振器三台(合計金額二一〇万円)(以下「本件在庫」ともいう。)がないことに気づいたこと、納品書等の書類上は、三富士電機株式会社から一五台仕入れ、うち三台が探査機の構成部分として売上げたことになっていたこと、しかし、当時、人手不足で多忙であったことなどから、その所在調査を行うことなく、右三台を在庫から除外して発振器九台分の金額を期末仕掛品棚卸高として計上し、過少の申告をしたこと、しかし、被告人としては、この三台の在庫を除外して製品製造原価を上げることにより、殊更に二一〇万円の所得を圧縮して脱税するという意思まではなかったこと、その後、昭和五八年一〇月初めころ、税務署の調査が行われた際、本件在庫の計上洩れを指摘され、その所在調査を行ったところ、本件在庫は取引先に貸し出されていたことが判明し、同月四日、本件在庫につき棚卸計上洩れとして、それを加えて修正申告を行ったこと等が認められ、被告人の当公判廷における供述中、右認定に反する部分は、他の関係証拠に照らし、にわかに措信し難い。
以上の事実を総合すれば、被告人は、前記のような事前の所得秘匿行為を行った上、申告所得を大巾に上回る実際所得が存在することを認識しつつ虚偽過少申告を行い、そのまま法定納期限を徒過させたものであるのみならず、本件在庫についても、納品書等と被告会社に実在する在庫の数のくい違いの存在を認識しつつ、期末仕掛品棚卸高から除外したのであるから、特段の事情の認められない本件においては、本件在庫についても偽りその他不正の行為により法人税を免れたものであると評価するのが相当である。
したがって、弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一及び第二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
2 被告人
判示第一及び第二の各所為につき、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本分、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、電機計測器の製造販売等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人が、被告会社の裏金を蓄積して、研究開発費用等にあてたり、経営が苦しくなった時に使用するなどの目的から、架空外注加工費を計上したり、販売総代理店契約締結に伴う契約金収入を除外するなどの方法により、二事業年度分の合計で六〇〇九万円余の被告会社の法人税を免れたというものであって、そのほ脱額が多額である上、ほ脱率も昭和五八年三月期が約七八・八パーセント、同五九年三月期が約七二・四パーセントといずれも高率であり、ほ脱の具体的方法も、取引先と通謀の上、架空の納品書・請求書等を作成させて加工代金を請求させ、それが支払われるや約五パーセントの手数料を除いて返戻させ、更に、被告人が開設した架空人名義の銀行口座に入金したり、債券を購入するなどして所得を隠匿し、また、前記契約金収入については、相手方と通謀の上、裏金で支払いを受けることを約束し、そのうちの一部を更に他人名義の口座に入金するなどして隠匿していたもので、その手口は計画的かつ巧妙・悪質であり、加えて、税務署の調査に備えて、関係人の一部に口裏を合わせてくれるように働きかけるなどしたことをも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら、他方、被告人は本件を反省し、今後は正しく税の申告及び納付を行う旨誓っていること、被告会社は、昭和五八年三月期及び同五九年三月期について修正申告を行い、法人税のみならず地方税についても完納したこと、前記争点に対する判断の箇所で述べた発振器三台分二一〇万円の仕掛品棚卸除外については、前記のとおり脱税所得から控除することはできないが、被告人としては、この棚卸除外を行うことによって、殊更二一〇万円の脱税所得を増加させようというまでの気持はなかったと認められること、被告人は被告会社の代表取締役兼研究者として、文字どおり零から今日までに発展させたものであって、家族並びに被告会社にとってかけがえのない存在であり、これまで前科前歴もないこと等、被告人に斟酌すべき有利な事情も認められるので、これらを総合考慮して、被告人については、今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑 被告会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木浩美)
別紙(一) 修正損益計算書
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
<省略>
別紙(二)
修正製造原価報告書
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
自 昭和58年4月1日
至 昭和59年3月31日
<省略>
別紙(四)
修正製造原価報告書
自 昭和58年4月1日
至 昭和59年3月31日
<省略>
別紙(五)
脱税額計算
会社名 ビイック株式会社
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
<省略>
(注)1 課税所得金額欄中( )書は所得金額を表わす。
(注)2 昭和59年4月1日から同60年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得は下段の税率を適用する 措法第42<2>
別紙(六)
脱税額計算
会社名 ビイック株式会社
自 昭和58年4月1日
至 昭和59年3月31日
<省略>
(注)1 課税所得金額欄中( )書は所得金額を表わす。
(注)2 昭和59年4月1日から同60年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得は下段の税率を適用する 措法第42<2>